41号滝のテン場にて      
41号滝にて   2010・・9/19-20

庚申川の三才沢出合より下流、斜めノ滝より60メートルほど先、左岸から落下する41号滝を眺め 本流右岸にテントを張る。
通いなれたと思った昔の作業道は今や、 しっかりと釣り人の往路に変わり果て道を探し目を据えていた頃とはしっかりと様変わり。
それでも年に数回は歩く事に、赤沢出合から始まる斜めの滝までのゴルジュ帯を避けるように 小道は本流右岸を荒巻に越していて斜めノ滝に落ち込む右岸の小沢を越すと簡単に41号滝下まで抜けられる。
庚申川上流でのキャンプはほぼ3年ぶり、滝音を聞きながら岩魚を焼き、本流の流れ落ちる音をを探しながら 焚き火を見つめ酒を煽る。
シーズン最後、今日は絶対一人でなければならない。

林道は案外と荒れていて先月とは随分と趣を変えていた、先月久々に雨降沢出合からの本流を辿り笹見木沢出合までの 渇水気味の本流を遡行、里のとんでもない暑さに比べたら沢の中は天国、うす靄の中に天国が 山女魚の背に乗って煌いていた庚申川の夏・・・


若者2人と遇う、千葉県と茨城県からの若者2人。
やはり41号滝のテン場を利用したとの事、フライロッドの穂先を 二人ともに破損したとの事で、 釣は早々に諦め充分にキャンプの夜を楽しんだ・・!
テン場下の落ち込みに熊の子供が死んでいますよ・・・・


赤沢出合を過ぎ本流は西に曲がると今はすっかり浅くなってしまった瀞場に、これより先は斜めの滝にかけてのゴルジュ帯が始まるのだが 旧道の荒巻道は右岸の唐松の林の中に、薄く道形をなしているだけでなんとも寂しい。 20数年も前、桐生の釣り人と岩魚の話をしながら幾度通った事か・・。
川虫を集めるのには・・・亀の子タワシを水流に逆らうように、そ〜となでると良いんだよ・・。
川虫は水切れの良い布に包んでさ〜・・・でもこの先は虫が取れないからよ・・毛鉤、黒い大き目の毛鉤が、一番・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
七滝下の川原で数年続けた夏の家族キャンプにその桐生の釣り人は決まったように姿を見せた。
下で奥さんにコーヒーをご馳走になったよ・・岩魚・・でたかい〜
始めたばかりのF・Fを珍しげにからかうように笑っていたあの桐生のおっさん・・どうしたろう・・
思えばなんら変わる事も無い庚申川の深い緑、釣れるようで釣れない、居ないようで居る庚申川の岩魚、 増えたり減ったりの釣り人の数、瀬を渉りゴロ石を飛んで、なんらあの頃と変わりはしない・・。

斜めノ滝を右岸から眺め枝沢を渉り41号滝のテント場に着く、若者2人の焚き火跡や草を踏みしめた跡に 不思議と安堵感を覚える。
いや・・・今夜一人になることへの不安が若者2人の営みに勇気づけられた・・只それだけかもしれないが。
ザックを下ろし41号滝を正面に眺める、落下する水音も3年前とは随分違う。
途切れ途切れに見える上部の滝も薄いレースのカーテンの様でなんとも緑の中におとなしい佇まいだ。
それにしても熊の子はいったい何処だ・・・
今夜のために薪を集めに集中する、ザックは軽い方が良いのだけれど焚き火のためには良く切れる鋸は絶対必要だ。
斜面に這い上がり枯れ木を切断、切り揃えホドの前に積み上げ1時間ほどで準備完了・・
次はテントの設営、これも簡単。(テントはARAI TENT のエアライズ1 )
時間は未だ午後3時過ぎ、缶ビールで軽く祝杯。
3年前はテント前には茸が生え(アカモミタケ)賑やかな感じだったけれど、 今年は猛暑のせいなのか茸は見当たらない・・・。
焚き火をするにも酒にするにも、なんとも中途半端な時間で困っているところに2人の釣り人・・・
岩魚数匹をビニール袋に入れテン場下の流れに降りていった。
ありゃ〜・・・これは今回のキャンプは岩魚・・無しだな〜・・と独り言
それでも、とりあえずロッドの準備、岩魚一匹釣れればそれはそれで、大いに満足。


熊の子


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4時半過ぎロッドを持ち上流へ、懐かしい釣り場、懐かしい滝の音・・・けれど反応なし。
三才沢出合まで、何の反応もなし。
テン場下まで戻り返す、繰り返し打ち込む毛鉤に岩魚は見向きもしない・・ヤッパリ無理だわな〜〜〜
流れの中の大岩に黒い物が・・・今しがた乗せたように水が滴っていて・・・・
熊の子供だった、3時過ぎに下りて行った釣り人の仕業なのだろう。何のためにこんな事を・・・?
ま・・一人キャンプのおっさんを驚かすためのいたずらに違いないが、それにしても熊の子供が哀れ。
親熊は・・・助ける間もなく、水流に呑まれた物か・・・。
小熊の目は蒼く光り今にも立ち上がりそうな・・・・・人の子供のような足裏はなんとも愛らしく無垢だった。
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水をはじき乾きはじめた全身の毛は艶やかに光っていた。
テン場に戻り焚き火を始めたが・・・・・熊の子が目に付く・・・。
戻り返し
岩の上に寝せ於くのもかわいそう、後足を持ち上げ 左岸上部の少し乾いた砂地に穴を掘り熊の子を埋葬・・・・・・。


夕方の白い本流の中ほどの岩に、ポツンと乗った黒いシミ
覗いて見れば熊の子の死骸、柔らかな黒い毛の子を引き寄せて、砂に埋めたよ・・・・・
キャンプの真下、まるで奇妙な一期一会・・・・・・

岩魚は釣れず熊の子を埋葬するなんて・・・・こんなの初めてだよ・・ブツブツ・・!。
火を眺めながら熊の子に想いを馳せる、手に残った重量、毛の軟らかさ。
軟らかく丸まった胸元には月の輪熊の証・・・閉じてやった瞼・・・

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酒も肴も充分に有る、一晩焚いても余るほどの薪も用意した、誰とも話す事も必要ない。
釣の最後はどうしても独りでなければ・・・・・・
41号滝下のテン場で飲む酒は愉快だ、独り酒なのに何故か愉快だ、薪も静かにパチパチ爆ぜて それに合わせ何処からか歌声が聞こえてきそうな・・・・!。
斜めノ滝右岸、屏風岩の下にはおそらく飯場があったのだろう。ガラス瓶の散乱した一角が有る、不自然に平らになり 不自然に痕跡を消されたような感じで・・・
ま〜良いではないか、根利山時代の庚申川流域は計り知れない輝きがあったのだから。
苔に沈む割れ茶碗が不思議な存在を示し、
何故か今・・過去に座った人達と話すかの様にこの場に火を眺め・・・何かを 申し合わせているかのようで・・・
だから、不思議とこのテント場は和むのかもしれない。


9/20日
明け方より雨、夜中に何度か火が気になり起きたような・・
焚き火の傍にマットを引きずり出し、暗闇を肴に独りの宴会はきまった様に酔いつぶれ殆ど記憶なし・・・?。
シュラフに潜り込んだのも記憶になし、明け方近く、ポツポツとテントを叩く雨音で目が覚める。
川の流れも滝の落下音さえいまや 耳に馴染んでしまい気にもならん・・・・なのに、雨音だけは別の様だ。
コーヒーを入れる、
明るくなった渓間に41号滝の瀟洒で控えめな水音が際立つ・・・。
石肌も降る雨に濡れ頭上のモミの枝が唯一の天蓋、うずくまるように樅ノ木に背を任せ茶をすする、 夕方の溪も良いが朝方の雨にけぶる渓間も中々だよ。
わずか上流にはゆったりと瀞場が広がる、今この時間・・・シュートすれば、
フライの波紋がすぐにも岩魚の目に入り水面を割るかも・・・なのにマグカップをフライロッドに持ちかえる気にはなれない。
いそぎ食事を済ませ帰り支度、大粒の雨が焚き火に突き刺さる・・・・
もう少しだけ遊んで居たかったのにな〜・・・・
早い時間帯の撤収でよかった、庚申川は珍しく泥水に変わり七滝近くではいよいよ足元もおぼつかない状態、 午前9時近くには雨も上がり陽も照ってきてとりあえず危機を回避。
銀山平の草地でテントを乾かしのんびり昼寝、
それにしても何だろう、 今期最後の釣行と言うのに岩魚とはご対面ならず、小熊の溺死体に強い雨に泥水の渓流。
こんなものだろう・・・かな・・!。
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