2010/6-13(Sun)
今日にも明日にも関東地方も入梅(つゆいり)・・・・・
数日心躍らせいくつもの場面を想う。
春蝉の喧騒・・・
庚申川の岩魚を食いたい・・焚き火をしたい、緑のとばりに包まれたい。
さてさて・・・・
束の間緑陰細道を辿る。
あー
久々の開放感、
見知らぬ客に頭を下げ、つくろった笑顔を返す事も無い・・・
緑の道に蝉はジャワジャワとやかましく歓待してくれる、今日は間違いなく一人・・・。
今日も明日も誰とも会わず裡に響く己の言だけに頷けば良い。
大汗をかきながら予定のテン場に到着、先ずは水を飲もう・・・・・・
かみさんの持たしてくれたペットボトルを一口・・・ゲェ・・何だコリャ〜。
何とペットの中身はちょうど良く薄められた泡盛・・・・・だった(@_@;)。
テン場の整地、テントを張り今夜のための薪を集め近場の流れにビールを冷やす。
汗を拭いながらも温い泡盛をグビグビ煽る。
時間はちょうど昼過ぎ、
少しくらいポワ〜ンとしてるくらいがちょうど良い。
ぐずぐず過ごしているところに年配の釣り人が一人、今夜は泊まりですか・・・・
釣り人曰く
釣果は7匹、尺を越えるものは出なかった。
うー・・それにしても水が冷たいな〜。
足尾には良く来るとか、草鞋こそ履いてはいないが昔懐かしい釣り人の姿そのもので
山釣りの正調スタイル、あー何ともノスタルジー。
話をしてみて驚いた、同じ町の人だったとは将に驚き・・!。
春蝉がジャワジャワとなんともやかましい、滝の音も消し去りそうなほどやかましい。
テン場でゴロゴロ、何ともほんとにポケーとした時間を欲していたのに・・為ればなったで待ち時間が長い。
蝉の音が止み七滝の水音だけがテン場に響く、梢の先は紫色の夕空に・・・・
準備していたロッドを手に肩には久々の獲物を収めようと魚篭を提げ七滝下のポイントに降りる。
場荒れした流れに毛鉤を振り込むが反応なし・・・・
こんな時、頭の中では数年前の釣りの情景が交叉する。
正面、大岩の抉れの中から岩魚が今にも飛び出す筈なのに・・過去と今の流れが足元を濡らしている。
旧道をそれ本流に降り立つ、少しの間緩やかな瀬が両岸蒼黒い葉に被われ夕方の白い光に反射して
流れ落ちる、一番好きな場所だ。
義兄が丸々と太った36センチの大岩魚を上げた狭い瀞場も今は跡形も無い、倅の遊んだ砂場も草木に埋まり
数年続けた我が家のテン場も薄暗い緑の中。
竿を振りながら情景が蘇る、・・・ランタンの灯りがふっと見えたような。
日中のプレッシャーに解放されたのか小気味良く岩魚が反応する、
4匹の獲物を魚篭に収め名残りの山つつじが咲く杣道をテン場へと帰る。
テン場の上空だけが白い、焚き付けに追われていると木橋を踏む大きな音が聞こえる。
七滝を眺めるその木橋まではわずかな距離、既に滝の白い筋だけが怪しく光っているだけの時間なのに・・・・・
大きな獣かと思ったが意外な事に3人の若い釣り人だった、併しヘッデンも点さず良くもま〜暗い渓を降りてきたものだ。
火の近くによるその3人の若者、釣果は芳しくなかったとの事でリーダー格の若者以外は疲労困ぱい・・・そんな感じに見えた。
何時もの事だが・・・
一人の若者がおどけた様に言う、こんなところで一人キャンプなんて・・おれ・・絶対できね〜
それでもそのリーダーらしき若者だけは、妙に目が光っていて案外とこんな遊びにハマってしまうのかも知れない。
庚申山荘には幾組の登山者が入ったのか、泊まりの準備をしていた時には小尾根に隠れた登山道が随分賑やかだった。
だけどここは滝の落ちる音と焚き火の明りに照らされる滝霧だけが火の傍にくつろぐ私を包むだけ、
新調したフライパンに蕎麦粉を水溶きしただけの生地を流し込む、両面をこんがりとパンケーキのようにふっくらと・・・
3枚ほど焼きついでにベーコン、ソーセージも焼く。
蕎麦粉のパンケーキはマヨネーズと醤油が一番美味しい、ちなみに今回は蕎麦粉300gを持参・・
岩魚は焚き火の周りに立てかけての焼きがらし、時間は未だ8時前、ペットボトルの泡盛をグビグビ・・あ〜今夜は最高だよ。
蕎麦粉のパンケーキはすこぶる簡単で尚且つとても美味い、
蕎麦粉100%なのだから・・!。
昼間やかましかった春ゼミが訪問、蛾の訪問よりはよっぽど嬉しい・・・!。
渓で過ごす夜は心寂しい物かと最初思ったものだが何のことは無い、楽しい時間ただそれだけ。
火を眺め酒を煽り脳裡は過去と現実をごちゃ混ぜにして・・案外と次ぎの仕事を考えていたりするものだが・・。
登山では無い単なる山の釣りなのだ、どうせ明日は一人だけの渓で思いっきり竿を振るのだ、、、とか何とかこの酔っ払いメ・・・
テントに潜り込みいつの間にか寝てしまう、
夜中の鹿の鳴き声に驚きいつの間にか降り出した雨にがっかりするも急ぎ
周囲に溝を切る。
トラツグミの哀しげな鳴き声もこの雨では暗い山中に響く事も無く、楽しみが一つ消えてしまった。
テントを打つ雨音に誘われ朝まで爆睡、何のことは無い5時半、早い釣り人なら既に獲物を手に笑っているだろうに・・。
6/14 Mon/終日雨
気温がかなり低い、昨日のあの暑さは何処へ行ったのか。
雨の中テン場をかたずけ林道を下る、水無沢右岸から1230mの尾根までいっきに上る。この道は1月以来だ。
途中の砂防堰堤を左岸に渡り返し木の葉に埋まった水無沢の薙ぎが見えてくる頃には鞍部も近い。
今はもう歩く杣人も居なくなったこの道に思いは深い、思いで深い岩魚釣りの道なのだ。
濃い靄に包まれた尾根に這い上がる、更紗ドウダンツツジが枝葉の下に淡い淡紅色の花を下げ、
靄にけぶる尾根のその場所だけが一段と華やいでいた。
狭い尾根を東にわずかばかり降ると北方向に落ちる小尾根が○沢のゴルジュ帯に落ちている。
その小尾根の左側に回り込み石楠花の潅木をつてにし、
降って行くとまもなく中流部のゴルジュ上部に降り立つ。
さー、・・ここからが核心部の岩魚釣の開始だ。
雨続きのせいなのか沢床には直近の足跡は見られない、久々に懐かしいいつもの場所に荷を下ろし
遅い朝食にする。
MSRのガソリンバーナーが小気味良い音を響かせ磧に白い湯気が立つ・・・・・・・。
それにしてもいつもは喧しいほど鳴いているミソサザエの音もない、深緑の葉に被われ
曇り空の下、渓の流れはユラユラと煌く彩どりも失せて・併しながら苔の美しさは最高だ。
食事を終えロッドの準備、あれ・・・・
何たる事か穂先が5センチほど折れていた、トップガイドが無い、しかたなく折れた部分にビニテープで補強。
8f2/1のロッドが若干短くはなったがこの狭い渓だ、多少釣り味が落ちても致し方ない・・・とほほほ・・・。
たまに落ちてくる弱い雨と靄、陽が差していれば木漏れ日が爽やかだろうに・・・併しトップガイドを失った
出来損ないのロッドでの釣りに沢の雰囲気同様しっかり陰湿な気分に覆われてしまった。
今日の釣りは駄目かも・・・・・水温の低下が原因なのか水面には羽虫も見え無い。
水量がこの時期にしては少な過ぎる、岩魚は何処へ行ったのか・・・頭をひねるほどに音沙汰が無い。
それにしても沢の激変振りには驚いた、岩盤から剥がれ落ちた大小の木々と土砂が行く手を所々塞いでいて、
なんとも通過に手間取るしおまけにそん場所に限って毛鉤を落としたくもなる。
竿の不調子にしっかり釣りを諦め様変わりした沢の様子を確かめる様に遡行。
1250m付近の大滝を眺めクルマユリの蕾は無いものかと近寄るが入梅時季、華やいだクルマユリの姿が有る筈も無く
飛沫に濡れただけで終わった。
ほぼ沢が直角に西方向に回り込む、いよいよ遡行意欲も萎えてしまった。
冷たい沢水、山肌にまとわり付く靄に鳥も囀らない。
こんな日の釣行も久々だ、大滝を見下ろす右岸尾根に上がる。
細く切れ立ったキレット状の小尾根の肩から石楠花の潅木で埋まった急坂をよじ上がる、
花の時季なら喜んで這い上がるのだが・・・・
太い木々の隙間から靄に潰された陽光が差し込み山肌に蠢く者を照らす、まるで陽の光がいくつもの目の様にも見え
厳かな気分になる。
1360m付近、一帯は栂の木が尾根を埋めていて東南側は落葉松の密林、
茸の季節なら案外と面白いかも・・・
尾根で暫らく休み杣道を迂回しながら靄に濡れた山ツツジの斜面を楽しむ、
もうじき小アジサイの淡い水色の花で山肌は甘い香りに包まれ、蝉の大合唱も始まる。